わたくし、とある会社で事務系のお仕事をしております。
泣く子も黙る営業会社です。
営業担当さんたちは、常に数字に追われて東奔西走しています。
担当社員同士でお客様の取り合いをする光景も日常茶飯事。
大の男が胸ぐらを掴み合って、
「あれは俺の客だぞ!」
「うるせえ! 俺の客だ!」
と火花を散らしている姿を見ると、「あらアラ、タイヘンそうだナー」とか思います。
さて、そんな血で血を洗う争いをしている営業担当さんの中に、成績のトップ争いをしている猛者2人がいます。
仮に、A氏、B氏と呼びましょう。
A氏とB氏は、ライバル同士。
いわば、虎と龍。
小次郎と武蔵。
リュウとケンのようなものです。
お互いがお互いの営業成績を常に意識し、下手な男女カップルよりもお互いのことを観察しあい、切磋琢磨し、俺より強い奴に会いに行こうとしています。
ある日、A氏が私に耳打ちしました。
A氏
「ねえ、みかんさん、今度、B氏に出すコーヒーに、思い切って雑巾のしぼり汁入れてみてよ^^^^」
A氏は笑顔でしたが、目には青白い炎を宿していました。
わたくしは、A氏の眼光の鋭さに、恐れおののき、少し失禁致しました。
そうこうしていると、B氏がFAXの機械の前でなにやらゴソゴソと作業をしている姿が目に止まりました。
当社宛てに届いたFAXの中から、自分宛に届いた書類を探しているようでした。
私はB氏に近づき、言いました。
わたくし 「Bさん、書類整理なら、手が空いてますのでお手伝いしますよ」
……と。そのとき、私は見ました。
我が社のFAXの横には、シュレッダー機が設置されています。
そ こ に は。
シュレッダー機に、
A氏宛の書類が
ぐんぐんウィンウィンと
飲み込まれている様ありき。
見た、
見ちゃった。
わたくしは戦慄しました。
B氏は、A氏宛てに届いたFAXを問答無用でシュレッダーしていたのです……。
なんという足の引っ張り合い。
あなおそろしや。
シュレッダー口から目をそらし、ゆっくり顔をあげると、B氏と目があいました。
B氏はニタリと笑うと、
「ど う か し た か な ?」
と、低い声で囁きました。
わたくしは何も言えず、ただひたすらにプルプルと首を振り、挙動不審を悟られないように自分の席へ戻りました。
――夕方頃、会社中にA氏の声が響き渡りました。
A氏
「なあ、俺宛てのFAXみなかった? だれか~、しらない~? ね~、だれか~!」
……
し、しりません、しりません、しりません、しりませんしりません、しりませんしりません、しりませ…ん……
「男は敷居を跨げば七人の敵あり」とはよく言ったものです。
……営業会社、戦う営業マンは恐ろしいなあと痛感した出来事でした。
くわばら、くわばら。